「生きること学ぶこと」の問題を解く

はじめに

広中平祐さんの著書「生きること学ぶこと」を読みました。広中さんは数学界のノーベル賞とも言われるフィールズ賞を受賞した世界的な数学者です。数学者としての半生を振り返りながら、学ぶこと・創造することの楽しさを説いた本書の中に、ある数学の問題を見つけました。

 

「生きること学ぶこと」の問題を解く

たいそうな記事のタイトルにしてしまいましたが、ある数学の問題について考えてみた、というだけの記事です。。

 

本サイトには、なるべくカメラや写真に関する話題を書いていきたいと思っていますが、雑記カテゴリーであればある程度その枠をはみ出してもいいのではないかと思い、このような記事を書いてみることにしました。ひとつの情報として、興味のある方に参考にしていただければ嬉しいです。

 

さてその数学の問題は広中平祐さんの著書「生きること学ぶこと」(集英社文庫)の中にあります。

広中平祐さんといえば、京大の教授でハーバード大の教授でもあり、数学界のノーベル賞とも言われるフィールズ賞を受賞して、天皇陛下から文化勲章まで授与された学界の巨人であることはなんとなく知っていたので、本屋で本書を見つけるなり興味本意で買って読みました。

 

学ぶことの大切さ・面白さについて書かれた本ですが、その中に次の問題が登場します。

△ABCと点Pがある。Pを通って直線を引き、AB・ACとそれぞれD、Eで交わり BD=CE とせよ。

<ヒント> 同一平面上の等長線分BD、CEの回転中心は定点である。

 

図で書けば以下のようになります。

 

hironaka.001

 

この問題には、次のような文章が添えられています。

「この幾何の問題も高校時代に谷川先生から出題された問題である。当時、この問題が解けたのは私のクラスでは、私一人だけだったらしい。こういう問題はおそらく現在の高校では出題されないであろう。当時の数学のカリキュラムにあった問題かどうか今になってはわからないが、多分、谷川先生の独自の出題ではないかと思う。それくらい、谷川先生はユニークな数学教師であった。」(本文抜粋、P64-65)

 

本の中では、その後「記憶するだけではなく自ら発想することの大切さ」を説いて、話題が変わってしまいます。つまり、解答が載せられていません。

はじめはとりあえず読み飛ばしてみたものの、気になってしょうがないので、戻って考えてみることにしました。結局ノートとペンを片手になんだかんだで半日以上考えて、ようやく解答らしきものにたどり着くことができました。

 

点D、Eの正体を明らかにする

まずはいろいろと思考実験してみます。

\triangle \rm{ABC}が二等辺三角形(図中\triangle \rm{OBC})であれば答えは簡単で「辺BCに平行に直線を引けば良い」ということになります。受験数学であれば、これだけでも部分点が少しはもらえるでしょう。

 

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このもっとも単純と思われるケースを足掛かりにして三角形の形状を一般化していくにはどうすればよいでしょうか。\triangle \rm{OBC}\triangle \rm{ABC}との間になにか特別な関係を持たせることができれば、解答に結びつく知見が得られるかもしれません。
点Oは、線分BCの垂直二等分線上であればどこでもいいので、ぼくは\triangle \rm{ABC}の外接円上に点Oを取ることにしました。このように取れば、円周角の定理から、\angle \rm{OBA}=\angle \rm{OCA}が成立し、角度の関係を利用できるからです。

 

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また下図のように点D、Eが見つかっているとすると、\rm{OB}=\rm{OC}\rm{BD}=\rm{CE}\angle \rm{OBA}=\angle \rm{OCA}の3つで三角形の合同条件が満たされ、\triangle \rm{OBD} \equiv \triangle \rm{OCE}であることがわかります。(ヒントにある「定点」とは、点Oのことだったのですね。)
さらにこのとき、\triangle \rm{ODE}が二等辺三角形であり、かつ\angle \rm{DOE}=\angle \rm{DOC'}+\phi=\angle \rm{B'OC'}であることから、\angle \rm{ODE}=\angle \rm{OB'C'}であることがわかります。

 

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この重要な知見により、下図のように、点Dが\triangle \rm{OB'P}の外接円上の点であることがわかりました(円周角の定理)。同様に、\angle \rm{OC'P}=\angle \rm{OEP}から、点Eが\triangle \rm{OC'P}の外接円上の点であることもわかります。

 

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このようにして点D、Eが見つかっている場合には、それらの点の特徴を明らかにすることができました。

よって「点D、Eを探せ」という当初の問題に対しては、これと逆の手順を踏んで、以下のように解答したいと思います。

 

 

問題の解答

\triangle \rm{ABC}\angle \rm{C}が、\angle \rm{B}よりも大きい場合について考える。
\triangle \rm{ABC}の外接円と、線分BCの垂直二等分線の交点をOとする。ここで点Oは、線分BCが分かつ2つの円弧のうち、点Aがある方の円弧の上に取ることにする。
点Pを通り線分BCと平行な直線と、線分OB、OCの交点をそれぞれB’、C’とする。また、\triangle \rm{OB'P}の外接円と線分ABの交点をD、\triangle \rm{OC'P}の外接円と線分ACの交点をEとする。ここで、この時点では点D、E、Pが必ずしも一直線上にあるとは限らない点に注意する。

 

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点D、E、Pが一直線上にあることを証明するために背理法を用いる。すなわち、\triangle \rm{OC'P}の外接円と線分ACの交点Eが、線分DPと線分ACの交点(図中、E1)とは異なると仮定して矛盾を導く。
この仮定を採用した場合、\triangle \rm{OC'P}の外接円と線分PQは、点E1とは異なる一点(図中、E2)で交わる。ここで、点Qは線分DPと線分OCの交点のことである。
このとき、\triangle \rm{OB'P}の外接円に対して円周角の定理を用いると、\angle \rm{OB'C'}=\angle \rm{ODE_2}=\thetaを得る。同様に、\triangle \rm{OC'P}の外接円に対して円周角の定理を用いると、\angle \rm{OC'B'}=\angle \rm{OE_2D}=\thetaが得られるから、\triangle \rm{ODE_2}は底角が \theta の二等辺三角形であることがわかった。
さらに、\angle \rm{B'OD}=\angle \rm{C'OE_2}=\phiであることに着目すると、\rm{OB}=\rm{OC}\rm{OD}=\rm{OE_2}より、\triangle \rm{OBD} \equiv \triangle \rm{OCE_2}であることがわかる。したがって、\angle \rm{E_2CO}=\angle \rm{DBO}=\psi(これを①とする)でなければならない。
一方、円周角の定理から、\angle \rm{ACO}=\angle \rm{ABO}=\psiであり、したがって、\angle \rm{E_1CO}=\psi(これを②とする)である。
①および②から、点E1とE2は同一直線上にある必要があるが、そのような点E2は、点E1以外にありえない。したがって背理法から点E2は点E1に等しく、またこのとき明らかに点Eも点E1に等しくなる。よって点D、E、Pが一直線上にあることがわかった。

 

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最終的な関係は上図の通りである。このとき\triangle \rm{OBD} \equiv \triangle \rm{OCE}であるから \rm{BD}=\rm{CE}が成り立ち、これは題意を満たす。(解答おわり)

 

おわりに

錆び付いた数学の知識と勘をたよりに、なんとか解答らしきものにたどり着くことができました。本当は点Pの存在条件にも言及できるとよいのですが、複雑になるので止めます。

このような複雑な問題を提供しておきながら解答を載せないという姿勢は、本の主題の通り、読者をじっくりと考えさせることを狙いとしているのかもしれません。

 

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うえの解答の是非はともかく、今回、ああでもないこうでもないとじっくり考えることができて、とても楽しかったです。(了)

 

ご覧いただきありがとうございました!
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